読書
昼下がり。いつも文机に頬をつき、路地裏のさして変わり映えのしない風景を眺めながら物憂げな顔の貧書生、牛君(名前考案中)の閑居に盟友の馬君(名前考案中)が訪れる。近頃はウーバーイーツで働いている馬君、今日は早々に仕事を切り上げ、どうやら一風…
「ネット論壇」にある程度コミットしていた時期があった。リプバトルもさかんにしたし、キャスで議論っぽいこともした。多少名が知られたのかどうかわからないが、全然知らない人に「ツイキャス論客」として紹介されたこともある(リンク参照)。 ronri2.web…
趣味にまつわる物事をミニマルな単位に分割し、その極小のものの集合として認識すると、素のまま楽しむのとはまた違った独自の享楽が醸成されてくる。今回はそういう話です。 たとえば野球の試合。あれは完全にミニマリズムの世界だ。ミニマリズムの世界とは…
読んでいない本について堂々と語る方法 作者:ピエール・バイヤール 発売日: 2008/11/27 メディア: 単行本 書評文としてまず最初に言っておきたいのだが、この本の評価は高い。アマゾンのレビューがもし本の内容を正しく反映するならば(もちろんそうであった…
ツイッターでもブログでも薀蓄を売りにしているので、いちおう頑張って他人の知らなさそうなことを云うのだが、なんでも言えばいいというものでもない。ただ単に、 「ツチノコみたいに見えるネコの写真を投稿する“ツチネコ”というネットミームがあるんだよ」…
ダグラス・クープランド『ジェネレーションX』といえば、90年代アメリカを代表するカルトノベルの雄だ。 これは同国における”X”世代(日本でいう「しらけ世代」「新人類」に該当する)の青春小説であると同時に、リキテンシュタイン風のイラストやアフォリ…
ベロアルド・ド・ヴェルヴィル『出世の道』(1610。執筆は1590頃)はとても奇妙な本だ。どのくらい奇妙かというと、そのとぼけぶりは手前の蔵書中ではヨハネ・パウリ『冗談とまじめ』を凌いで堂々首位の栄冠を勝ち取るほどで、けれど面白いかどうかというと微…
某月某日 呉智英『知の収穫』に収録されている「読書日録」のなかに、石光真清『城下の人』について述べた次のようなくだりがあった。 「この本には、著者の年齢を始めいくつかの不自然な点が散見する。だが、このことは証言につきものの錯誤や主観性の表れ…
このところ、新年が近づいてきたこともあって、にわかに旧習の幾つかを断ち切って新生活を迎えたいという気持が高まり、それで新聞や雑誌や本やテレビ等との付き合い方に、かねてから薄々思っていたことを実践に移してみた。 その実践というのは、ようは「体…
僕はリヒャルト・シュトラウスという音楽家が好きではない。 それは例えば、1933年にブルーノ・ワルターがベルリン・フィルを率いて開催する予定だった演奏会で、ナチスから脅迫の電話がありワルターが身を引かざるを得なくなるという事件のさいに、あっ…
本を読むということは、知識を得るだけではなく、著者の知性と対峙することである、というのは当たり前のように聞こえるが、では著者の知性と対峙するとは実際にどのような読み方をすればよいのか。その理想的な例は、中野孝次『ブリューゲルへの旅』(昭和…
やはり一冊の本から話を始めるのがよいだろう。 それはなんの本でもよいのだが、今、たまたま手許にあるのは亀山巌の『裸体について』(昭和四十三年、作家社)である。限定五百部とうたっているが、市価は昔も今もせいぜい仕事帰りに一杯飲むていどだ。亀山…