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人がたどり着く音楽って?

 ある知り合いが、「人が最終的にたどり着く音楽はハイドンだ」と云っていた。こういう断言はTwitterだといかにも「自分の趣味嗜好を他人に押しつけるな」的なクソリプが来そうだが、幸いにしてここはブログだ。したがって忌憚なく云わせてもらえば、「確かにハイドンかも知れないが、どちらかといえばスカルラッティではないかと思う」というのが僕の意見である。ただし鍵盤楽器ソナタ、それもチェンバロではなくてピアノで弾いたものに限る。


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 ドメニコ・スカルラッティ。名前はヘビメタっぽいが外見は普通である。

 

 D・スカルラッティ(1685-1757)の六百曲ほどある(!)鍵盤楽器ソナタは、ピアノのない時代に作曲されたものなので、チェンバロで弾くのが正当という意見はある。しかしチェンバロは強弱に乏しく、音もキンキンしていて耳が疲れる。チェンバロは、バロック室内楽のなかで目立たずに鳴っているぶんにはいいが、ソロで聴いてあまり心地いい楽器ではない……というのは僕の生理的好みなので反論は受け付けない。「チェンバロは生理的にムリ」ということである(同じ理由でオルガンも苦手)。
 自らもスカルラッティをレパートリーに採り入れているグレン・グールドは、彼のソナタについて次のように記している。

 

 「かれの音楽は同種のだれの音楽とくらべても、そのどれより新奇なものが占める率が高くなっています。予測されることですが、スカルラッティには一貫性に欠けるところがあります。その作品は通常の意味では記憶に残らないかもしれません。その膨大な量の旋律は聴き手の記憶にすんなりと印象を残すことはないかもしれません。しかしたとえそうでも、この作品の抑え難い躍動感と善意によって、六百ほどあるソナタのだいたいどれをとっても、たしかな音楽の喜びを与える作品であることはまちがいありません」(CBC放送番組用ノート/1968)

 

 まとめると「新奇性が高い」ゆえに「一貫性に欠け」「記憶に残りにくい」。しかし「たしかな音楽の喜びがある」。それがスカルラッティ鍵盤楽器ソナタであるとグールドは云う。実際、聴くとまさにそんな感じです。

 まず六百曲(wikipediaだと559曲らしいが)の、何番がどの曲というのが憶えられない。CDにしてもネットにしても、ちょっと気を逸らすとすぐに現在地を見失います。まるで広すぎてわけがわからない庭園にいるような感じになる。
 迷宮的とかバロック的、というとピラネージやルネ・ホッケの『迷宮としての人間』などが思い浮かぶけれど、そんな重厚なものでもない。グールドは「跳躍感と善意」と云ったが、この感じを絵画に例えるならば、フラゴナールとかリチャード・ダッドあたりではなかろうか。時代と国が合ってないけれど。

 さてそんな楽しいけれど憶えにくいスカルラッティソナタのなかに、一つだけはっきり憶えているものがある。「Sonata E major K.380 L.23」だ。それはなぜか。この曲が始まって40秒前後から、ファンファーレのような旋律が数度出てくる。ファンファーレといえば、城門で衛兵がトランペットを吹くイメージだ。しかしこの曲のファンファーレはそれほど音が大きくない。楽譜でどう指定されているのかは未確認だが、たいていの奏者が小さく弾く。すると情景としては「遠くのお城からかすかにファンファーレが聞こえる」という感じになる。

 ためしに、この動画で確認してみてください。

 

 
 Horowitz - Scarlatti Sonata L23

 

  さて、そこでこの画像である。

 

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 これは、ドラゴンスレイヤーⅣ ドラスレファミリーという、87年にファミコンやMSXで発売されたアクションRPGだ。見ての通り、背景に城がある。

 このゲームの主人公の家族は、伝説の英雄の子孫で、悪のドラゴンが復活したさいにはそれを倒す使命を背負っている。ゆえに地下迷宮にほど近い森に(父親が木こりということもあって)暮らしている。
 したがって、一家の子供たちにとってお城は近くて遠い場所だ。行きたくても森生まれ森育ちだから、そして子供ながらに戦う使命があるのだから(お母さんあたりは、ちょいちょい城下町に行ってそうだが)。

 ちなみに、実際に『ドラゴンスレイヤーⅣ』のなかではお城に行くことは出来ない。では何のためにあるかというと、シリーズ他作品と世界観が繋がっていることを示しているらしい。
 そんな遠くのお城から、ファンファーレがときおり風に載って聞こえてくる。それが兄妹の憧憬をかき立てる。そんな光景と「Sonata E major K.380 L.23」の「遠くから聞こえるファンファーレ」はシンクロ率400%を越えているではないですか! ……いや400%は言い過ぎなんだろうか。エヴァ観てないからよくわからないけど。

 ともあれ「人が最終的にたどり着く音楽はスカルラッティ」なのかどうかはわからないが、四十年生きてきて、今のところたどり着いたのはスカルラッティであり、それは僕が小学生の頃に『ドラゴンスレイヤーⅣ』をプレイし、城をじっと眺めて感じた、あのさみしさと繋がっている。

 この音楽を聴くたびに僕はあの時の気持ちに還る。いい音楽は、軽々と時間を越えるのだ。

 

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