やすだ 😺びょうたろうのブログ仮

安田鋲倪郎(ツむッタヌアカりント@visco110)のブログです。ブログ名考案䞭。

蚀葉の暎力に぀いお

 

 䟮蟱、䞭傷、眵詈雑蚀は怖ろしい。それはもちろん、蚀われた偎も恐ろしいのだが、蚀った偎にずっおも充分に恐ろしい行為である。盞手の報埩感情を刺激するこず、たた第䞉者の目を匕くこずによっお、攻撃した偎が攻撃される偎にたわる可胜性は垞にある。だがそれだけではない。時には殺されるこずさえありうるからだ。

 人が他者に殺意を抱く理由のうち、最も倚いのが䟮蟱されたこずであるずいう調査がある。

 

 進化心理孊者デノィッド・バスが五千人に聞き取りを行ったずころ、調査察象のうち今たでに䞀床でも誰かを殺す想像をしたこずがあるず答えた人は、男性の、女性のにのがったずいう『殺しおやる 止められない本胜』平成十九幎、柏曞房。
 バスはこの結果に倧いに驚いたそうだが、このこず自䜓はさほど驚くに倀しないように思える。だが問題はその理由だ。他人に殺意を抱いたこずのあるず答えた倧半の人々が、身を守るためずいった切実な理由ではなく、䟮蟱されたので報埩したいず思ったず答えたずいう。

 

 

 

 なぜ盎接的な脅嚁よりも、䟮蟱や䞭傷ずいった蚀葉の暎力のほうがより匷い報埩感情を呌び起こすのだろうか。

 人が他人を攻撃したくなる、぀たり怒りの感情ずいうのは、自分のテリトリヌが䟵されたず感じた時であるずはよく蚀われる。ここでいうテリトリヌずは、身䜓や家族、財産、土地ずいったものの他に、粟神的な領域をも含む。

 

f:id:visco110:20180618135253j:plain

 ペヌテル・ブリュヌゲル『旅籠から远い出される酔っ払い』(1620頃)。乱闘の様子の背景には、静謐な教䌚が察照的に描かれおいる。

 

 ニコル・ゎンティ゚によれば、蚀葉の暎力は瀟䌚関係のなかで蚀葉が占める䜍眮に結び぀いおいる。

 蚀葉の暎力は「取匕や、人々の埀来や、高い人口密床によっお、人間同士の察話の機䌚がおびただしく増える郜垂的な環境においおは、䞀段ず圱響力を持ったのである」『䞭䞖郜垂ず暎力』平成十䞀幎、癜氎瀟。
 圌によるず䟮蟱は、小さな集たりで発せられる堎合ず、広堎で叫ばれたり居酒屋で響いたりあるいは通りの建物に反響する堎所ずで、意味合いがたったく異なる。なぜなら郜垂生掻においおは評刀はかけがえのない身分蚌なのであり、䟮蟱するずいうこずは「圌が共同䜓のなかで暮らしおゆく暩利に異議を唱える」こずであるためだずいう。

  ぀たり、お前は盗人だずかろくでなしだずか公然ず蚀われたさいに、すぐさた打ち消さずに拡散しおしたうず、圌圌女は実際にそのような存圚だず共同䜓から疑いを持たれるようになる。それはやがお珟実的な排陀に繋がっおゆく。か぀おは共同䜓からの排陀は生呜の危機を意味した。䟮蟱は時ずしお物理的な暎力以䞊の脅嚁だったのである。

  

 【远蚘】

 こずは䞭䞖西欧にかぎらず、人類孊的な時間単䜍進化生物孊のテリトリヌでも同趣旚のこずが指摘されおいる。テリヌ・バヌナムゞェむ・フェランによれば、

  はるか昔の人間にずっお、人ずの関わりで倱敗をするこずはおそらく、珟代ずは比べ物にならないほど痛手だったはずだ。比范的最近たで、人々はおずなになっおから死ぬたで、ほずんど同じ集団の䞭で暮らしおきたこずを思い出しおほしい。

 䞭略

 瀟䌚的倱敗は人間の祖先にずっお、呜に関わる結果を匕き起こしかねなかった。危険に満ち満ちおいた祖先の時代、人々は集団から離れお䞀匹狌になっおはたずもに暮らしおいけなかった。ちがう集団の人々をうっかり怒らせたら、たちたち運呜の暗転を招きかねない。先のダノマモ人も、村から远われた人物が近くの別の集団に加わるこずはずきどきあるが、そうした人間は「い぀殺されるか知れない」ずいう危険ず背䞭あわせだずいう。
 『いじわるな遺䌝子』倪字は安田による

 ずのこずである。又、SNS時代においおは本文䞋蚘の指摘に加え、人的流動性、蚀い換えれば人間の代替可胜性が高たるゆえの「攻撃にたいする閟倀の䜎䞋」が起きおいるように思う。教宀や職堎など人的流動性の䜎さが枩存されおいる堎ではそうは行かない蚀葉にしろ、物理にしろ、そう簡単に攻撃行為を発動するわけにはいかないこずは自明である。

 なおSNS時代の人間関係の環境的倉化に぀いおは、䞋蚘のブログで比范的長ったらしく述べおいる。

 

visco110.hatenablog.com

 

 今このような蚘述を読むず、倚くの人がSNSを匷く想起せずにはいられないのではないだろうか。SNSこそが珟代における「人口密床の高い郜垂」であり、「広堎で叫ばれたり、あるいは通りの建物に反響する堎所」であるず思えおならない。


 ニコル・ゎンティ゚やあるいはロベヌル・ミュシャンブレッド『近代人の誕生』が呈瀺するような、蚀葉の暎力が実際の暎力ぞ必然的に結び぀いおゆくさたは、各段に非暎力的な珟代においおは、どのように倉化したのだろうか。

 もちろん、今でも実際の暎力ぞ発展しおしたう䟋はあるだろう。しかしその倚くは、実際の暎力ずいう「捌け口」決しお歓迎すべきこずではないがを持たないため、泥沌の蚀葉の応酬、瀟䌚的な名誉の貶め合いに繋がっおいるのではないか。

 

f:id:visco110:20180618135954j:plain

 ダン・サンデルス・ファン・ヘメッセン『女の喧嘩』(1540)

 

 

 

 実は僕は、眵詈雑蚀に察しお元々は擁護したい気持ちを持っおいた。

 それは民話やファブリオヌ、あるいは『ふらんすデカメロン』のような滑皜艶笑譚、『阿呆物語』『攟浪の女ぺおん垫クラヌシェ』ずいった諷刺文孊に、豊かな眵詈雑蚀の蚀語䞖界を芋出すからだ。

 民話や颚刺文孊の䞖界においお、あばずれ、䞎倪者などずいった掛け合いはありふれおいる。䟋えばファブリオヌでは「神様、この人が長く生きたせんように」ず倫の前で祈る劻などは非垞にスパむスが効いおいるず思うし、柎田倩銬蚳『聊斎志異』だったず蚘憶しおいるが「この廃すたれ者」ずいう眵り蚀葉も奜きである。

  こうした眵り合いは、䞊で述べたような排陀、瀟䌚的抹殺のための䟮蟱や䞭傷ずは別のものではないかず思う。

 

 このような䟋の最たるものは、吉行淳之介ず赀線地垯の嚌婊たちずの眵り合いであり、その様子に぀いおは日高普ひろしの゚ッセむ「仰げば尊し吉行の恩」に掻き掻きず瀺されおいる。この゚ッセむに぀いおは谷沢氞䞀『玙぀ぶお 自䜜自泚最終版』平成十䞃幎、文藝春秋においお簡朔に玹介されおいる。

 

 ずっかかりの嚌家の女たちに吉行がたず声をかけた。それは誌䞊に収録できぬ類いの、ひやかすような銬鹿にするような調子の蚀葉だった。

 ただちに女たちは猛然ずやり返す。その悪口雑蚀を济びながら、吉行は埗意そうな、どうです、ず蚀わんばかりの衚情で日高をかえりみた。次の嚌家の前ぞさしかかるずたた同じこずを始める。あがる気のないこずを察知しおいる女たちは、初めから寄っおたかっお悪口の集䞭砲火。こうしお䞀軒䞀軒やりあっおいるうち、芋知らぬ者同士で悪口のやりずりをしおいる吉行ず嚌婊たちの間に、眵詈雑蚀を互いに投げ぀け合うこずで、そこになにかしら暖かい心が通じおいるのを日高ははっきりず悟った。

 

 ここに曞かれおいるこずを、ひずたずは虚心に受け止めたい。
 吉行の嚌婊蔑芖、たた本圓に吉行ず嚌婊たちずは心が通じおいたのかずいう疑い、本圓に心が通じおいたずしおも結局のずころ客芳的には差別なのではないかずいう問題、さらに過去のテクストを珟代の䟡倀芳でどこたで批刀しうるのかずいった懞案。ポリティカル・コレクトネスが浞透する珟圚の我々にずっお、この内容をそのたた受け止めるこずは、圓然ながら難しい。

 

 だが、敢えお蚀えば嚌婊うんぬんが本質なのではない。これは誰ず誰のあいだにも圓お嵌たる話だ。そもそも完党に察等の人間関係など存圚しないのだから  ず蚀ったら云い過ぎだろうか。

 ここで日高が云わんずしおいるこずは、「眵詈雑蚀は排陀ずむコヌルではない」ずいうこずだ。眵詈雑蚀もたた亀情であり、コミュニケヌションでありうる、そのような可胜性に぀いお圌は述べおいるのである。

  

 

 

 こうした、互いを殲滅しあうような誹謗䞭傷ず、亀情ずしおか぀おあり埗たかも知れぬ眵詈雑蚀ずは䞀䜓、なにが違うのだろうか。

 もちろん違うのは奥底にある心だ。しかしそれを読み取れずいうのは䞍可胜なこずなのだろう。誰が他人の心を読めるずいうのか。SNSでは、互いのこずをよく知らない者同士が、倧抵は文字情報のみでやりずりする。衚面䞊は眵っおいるがじ぀は奥底に暖かい心がある、などずいうやり方は通甚しない。


 僕自身、SNSにおいお「おれは口は悪いが懐の深い、情けのある奜人物だ」ずいったような態床は基本的に認めない。SNSにおいおはFtoF以䞊に衚面䞊の瀌儀がきわめお重芁であるもちろん薄っぺらな慇懃無瀌はすぐ芋抜かれるので、衚面だけでなくもう少し奥たでは瀌儀正しくなければならない。

  正盎なずころ、いたの僕は眵詈雑蚀を擁護しようずいう気を倱っおいる。

 孊生時代は筒井康隆の毒舌の倧ファンだった。たた宮台真叞が嚁勢よく「察米ケツ舐め倖亀」「りペ豚」等々云うのはずおも痛快だがちなみにこれらは兞型的な䟋にすぎず、宮台は巊に぀いおも舌鋒を緩めない、それは特殊な才胜であるか、あるいは敢えお他人を傷぀けるこずを蟞さないずしおいるかであり、たた本人にも業が返っおくるこずを芚悟しおのこずなのだろう。

 

 颚通しのよい蚀葉のかけ合い。それは今日にあっおはもはや望むべくもないのだろう。か぀おはあり埗たかも知れない瀟䌚的玐垯のかたちずしお、眵詈雑蚀による亀情は、フィクションのなかでのみ生き残るしかないのだろう。

 

「殺しおやる」―止められない本胜

「殺しおやる」―止められない本胜

䞭䞖郜垂ず暎力

䞭䞖郜垂ず暎力

玙぀ぶお―自䜜自泚最終版

玙぀ぶお―自䜜自泚最終版