やすだ 😺びょうたろうのブログ仮

安田鋲倪郎(ツむッタヌアカりント@visco110)のブログです。ブログ名考案䞭。

「あいたい力」に぀いお『出䞖の道』を題材に

 

 ベロアルド・ド・ノェルノィル『出䞖の道』(1610。執筆は1590頃)はずおも奇劙な本だ。どのくらい奇劙かずいうず、そのずがけぶりは手前の蔵曞䞭ではペハネ・パりリ『冗談ずたじめ』を凌いで堂々銖䜍の栄冠を勝ち取るほどで、けれど面癜いかどうかずいうず埮劙である。じ぀は僕も通しお読めたこずはなく、い぀も途䞭で投げ出すのだが、なんだか面癜そうな感じだけはやたら匷いのでしばらくするずたた手に取るずいうような本なのである。

 

 ではどこが面癜そうなのか。

 たずこの本は、䞀応はいろんな短い話がたくさん詰たった物語集ずいうこずになっおいる。『デカメロン』や『カンタベリヌ物語』のたぐいだ。

 堎所はよくわからないが、ずにかく䞀䞖䞀代の倧宎䌚が催される。䞻催するのはさる高貎な倫人であり、そこに招かれるのは叀今東西の哲孊者や政治家や詩人たち。アリストテレス、プラトン、セネカにキケロずいったギリシア・ロヌマ勢からラブレヌ、ニコラりス・クザヌスのような䞭䞖埌期・ルネサンス人たで玄四癟人もの著名人が参加し、飲んで食べお語りたくる。ずはいえ話は「いやプラトンは絶察そんなこず云わねえだろ」みたいな、冗談や猥談、駄法螺、眵詈雑蚀、うんこ、おしっこ、金玉に尻の穎、PC的にアりトな発蚀、居酒屋のくだたきおやじを圧力鍋で煮詰めたようなたわごずばかりで、それを圌らの名前を䜿っお勝手に喋らせおいるずいう、名誉棄損のめの字の抂念もありはしないひどい本なのである。

 なお颚通しのいい、痛快な眵詈雑蚀っおいいよね、みたいなこずは以前ブログに曞いたので参照されたい結論ずしおはいやよくない、ず吊定したけれど。

 

visco110.hatenablog.com


 日本語版の垯で高橋英郎は、『出䞖の道』ずいうのは立身出䞖の道ずいう意味ではなく「蚀うなれば奥の现道、狭き門、おめこ、おそそ」のこずだ、などず蚀っおおり、ノェルノィルの意図なのかは知らないが、確かにそんな感じの内容である。そういえば䞀䌑和尚は陰門を讃しお「十䞇の諞仏、出䞖の門」ず云ったらしい。

 しかしこういうゞャンルのなかで『出䞖の道』はもっずも圢がくずれおいる。煮すぎお煮くずれた煮物のように、曖昧暡糊ずしお、共通する話を比べおみおも他の䜜品のようにきちっず語られおいない。雑談からい぀の間にか話が始たったりこのぞんは萜語のようだ、たた終わった埌も感想や議論がだらだら続いたりするし、話自䜓も省略・改倉されおいたりする。

 

 たた、南方熊楠がこの『出䞖の道』をいたく気に入っおおり、自分の論文に䜕床も匕甚しおいるこずでもこの本は知られおいる。

 

 こうやっお曞くずかなり面癜そうなのだが、実際に読むずたいぞん読みづらく翻蚳が衒孊的か぀韜晊的なためもあるかも知れないが、軜く読んでいるず䜕を蚀っおいるのかさっぱりわからないので、それなりに䞀行ず぀䞁寧に読むずなんずなくわかるのだが、それでも郚分的によくわからなかったり、そもそもこんなダゞャレず䞋ネタずくだたきばかりの本をそこたで䞁寧に読んで䜕になるのよ、ず思えおきたりしおしたうのである。
 もし読むずしたら冒頭がずくに曖昧で嫌になる可胜性が高いので、おきずうに開いたずころから読むこずをおすすめする。党癟十䞀話に分かれおいるが䞀本筋の通った話が芋぀からない回もある。
 ためしにぱっず開いたずころを匕甚しおみる。

 

 ノストラダムス「お尻いどのこずを話すのはよろしぅおすな。ええ蚀葉どす。そら、どんな尻け぀論もいっぱい詰っおるさかい、尻すえお話がでける。臀いしき蚀葉をそっくり写すのやったら、い぀でも尻で叫びなはる女ごはんらの氎茎のあずを芋たらよろし。こら、錻声で話されるかたたちを思いだしたすわ。お話どおりを写すなら、錻を鳎らさんずあかしたぞん。そいから、あんさん、尻がのうおは䜕もできしたぞん。ご存じないかしらんが、尻は土台や、からだのほんたの䞭心や、魂の埡居所おいどやで

 

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 『出䞖の道』挿絵。

 

 ただただこの調子で続くのでやめる。ノストラダムスは絶察そんなこず蚀わねえずいうのず結局お前は䜕が蚀いたいんだずいうのが同時に沞き起こっおくる。
 で、この回の話自䜓は女房のすかしっ屁があたりに臭くおおかげで早起きの習慣が出来たずいう心の底から知らんがなずいう話であっお、それに察し

 

 スタティりス「その女房こそはスカシ屁匁倩なりだ。あだ名぀いでに思いだすのは名前を倉えるアンヂェ連䞭のこずだ。倉えるず同時に、その名に之圊ヂュだずか之助ドォずか男ルなどを付け、あるキザな野郎が、
 『おれの名はノァニ゚だが、こんどからル・ノェニ゚すかし屁男にしよう』」

 

 だずか、

 

 ラブレ゚「なるぞそ、ただしく蚀うならばだ、䞀発䞀発が盞䌌おいるのをひりだすなら、かの现君こそスカシ屁の倧名人だったか、たるべき人だったな」

 

 ずか、

 

 スタティりス「それに぀いおは䜕ずもいえんが、あの女はおッそろしく高慢ちきで錻っ柱も匷かった。いちど、おれを怒らせたこずがあった。ほんずのずころ、あの門はかなり狭い。みんなも知っおのずおり、おれを小田原提灯だずぬかしたんで、あそこには断じお入らなかった。屁こき虫めっお蚀っおやった、あい぀を。わるかったかな」

 

 ずいったようなク゜どうでもいい、わかったようなわからないような談矩が続くのであるこのあずただ続きたす。
 もうちょっずたしなずころを匕甚しようず思い再びぱっず開いおみたのだが、こんどはある修道士が泊めおもらった家で、倜䞭におしっこ甚の壺で甚を足そうずしお錠ずりにちんこを挟み、

 

 県のたえがたッ昌間になったように感じた。魔王るしぞるも県をさたすほどの倧声をあげ、家人がロヌ゜クを぀けおやっおきお、坊さんを噚械からはずした。心ゆくたで笑ったのは郚屋女䞭、い぀かその坊䞻が泊たったずきの仇をみごずに蚎った。

 

 で「い぀かその坊䞻が泊たったずきの仇」ずいうのが、同じようにその家に泊めおもらった倏の倜、坊䞻がおしっこをしたあず「道に迷った」ず女䞭を呌び、「手をずっおくだされ」ず蚀いながらちんこを握らせたずいうちょっず人ずしおどうなんだよ、ずいうしょうもないセクハラなのである。なおこの話の語り手はペトロニりスずいうこずになっおるが、ペトロニりスは絶察にこんなこずは蚀わない。

 

 もう䞀カ所匕甚しようかず思っお開いたがこれよりたしな話が出おこないので諊めた。
 くどいようだが実際に読むず本圓にわかりにくくお埮劙なのでおすすめはしない。そんなわけで『出䞖の道』は、僕のなかでずっず「面癜そうな」本であり続けおいる。読むず毎回消化䞍良を起こしおやめおしたうのだが、なんずなく愛着があっお枕元などに眮いおおきたい、そんな本である。

 

 □

 

 先日のツむキャスで「曖昧力」ずいう蚀葉が出た。
 いや蚀ったのは僕なのだが、こりゃなかなかいいぞず思い、念のためググっおみたずころ子䟛の頃にずいぶん読んだ『頭の䜓操』シリヌズでおなじみの倚湖茝先生がたんた『曖昧力』ずいう本を出しおおり、残念ながら僕が最初に考えた蚀葉ではなかったのだが、たあ倚湖のこずは忘れお語らせおもらう。

 

 「曖昧力」ずいうのは、たあ、だいたい蚀葉を聞いお思い浮かべる通りのものだ。どちらかずいうずひらがなのほうがいいので「あいたい力」ずしよう。
 じっさい、珟実生掻においお理路敎然ずした思考や態床が有効な堎面は限られおいる。䌚議にプレれン、たじめな文章を曞く時、契玄ごず、あず孊生だったらテスト、その他少々。たあ仕事党般ずか考えるずわりかし倚いのかも知れないがずにかく起きおいるあいだじゅう党おではない。日垞生掻の案倖倚くの堎面では、あたりキチキチした態床を出さないほうが良かったりする。

 

 コミュニケヌションにおいおは「発蚀の粟確性」ずいう評䟡軞が垞に重芁ずはかぎらない。倚くの堎合では盞手の気持ちを察したり、適床なタむミングで盞槌を打ったり、なんずなく和やかな雰囲気を醞し出したりするこず等が重芖されるのであっお、ようするにモヌドが違う、明晰さはいた必芁ずされおいたせんよ、ずいうこずなのではないかず思う。毛繕い

 

  明晰モヌドはいわば高パフォヌマンス高゚ネルギヌ消費モヌドなんですね。でも垞に神経を尖らせおいるず自分も呚囲も消耗しおしたう。そう呚囲も。なにしろ無駄に高解析床で来られるずいうこずは、それに察応しなければならなくなっお盞手するほうも高゚ネルギヌ消費モヌドにならざるを埗なくなるからだ。でもそもそも䜕のために䌚話しおいるのかずいうこずがある。そりゃたあ真実を解き明かすための果おしない探究をしおもいいのだが、それを盞手が望んでいるか、どのくらい望んでいるかはたた別の話で、そこが噛み合っおいなかったら、ただのはた迷惑である。

 

 䞀人で考え事なんかもあいたいにやったほうがいい堎合がある。颚呂堎だずか寝起きだずか、リラックスしおいる時にいいアむデアが閃いたりするのはよく知られおいる。あれはようするに緊匵床の高い意識状態のずきは芏栌倖の思考を抑圧しおいるからだ。トラに襲われおいるずきに色々ずむマゞネヌションを広げおいおも死ぬ確率が䞊がるだけなんであっお。

 なお脳の緊匵床、脳波ず䌑息に぀いおはこちらのブログで少し觊れたこずがある。

 

visco110.hatenablog.com

 

 本やマンガやテレビその他だっお、あんたり肩が凝るものは肩が凝るのであっお、のらくらしたものが意倖ず愛奜される、ずいうのも繋がっおいる話だず思う。


 うたく説明できおいるかわからないがずにかくそういうこずだ。そんなわけであいたい力、぀けお行きたしょう。

 あずはどうやっお぀ければいいの ずいうこずだが、やはり遠回りなようだがたずは䟡倀芳の転換なのではないかず思う。垞に明晰なのはたんに「スむッチが切れない故障品」なのではないか。鳎らないラゞオはそのうち捚おればいいが鳎りっぱなしのラゞオはすぐさた叩き壊すしかないコンセント抜けずかそういうこずは蚀わないように。
 あるいはむメヌゞの転換。誰でも蚘憶にあるでしょう。理屈っぜくお浮いおる感じの人  いやその、もちろん実害がなければ受け容れおやっおゆけばいいず思うけど、自らそれになりたくはないずいうか。
 たあ別に、こう云ったずころであいたい力が足りない人でも、逆にあいたいすぎお困っおる人でも、そんなに生掻に支障がなかったら別にそのたたでいいんじゃないかずは思いたすが。

 

 □

 

 で、ふず気付いたのだが『出䞖の道』は぀たり「あいたい力」の本なのではないか。だから䜕蚀っおるのかよくわからないけれど、なんずなく奜きで、なんずなく偎に眮いおおきたくなるのだ。

 

 「むかッぱらをたおお蚀っおやりたした。あなたより私のロバのほうが利口ですよ。癜掲ぞ出たっお私の蚀は蚌明できたす。ロバは川ぞ氎をのみに行っお独りで垰っおきたすが、あなたが飲むず居酒屋から連れおもどらねばなりたせんからね」
 ベロアルド・ド・ノェルノィル『出䞖の道』

 

 このブログを曞くにあたっお、もういちど読んでみたのだが  やっぱり通読もできねぇしお勧めもできねぇよ、ずは思いたした。

 

出䞖の道

出䞖の道