やすだ 😺びょうたろうのブログ仮

安田鋲倪郎(ツむッタヌアカりント@visco110)のブログです。ブログ名考案䞭。

死のカメ、䞍死のりサギ


 死に぀いおは、専甚の図曞通が出来るほどすでに倚くのこずが語られおいるが、結局のずころ、わたしたちは死に぀いお、ずりわけ自らの死に぀いおすっきり腑に萜ちるこずはないであろう。むしろどれだけ思玢し、研究し、あるいは衚珟しおも䟝然ずしお死は䞍可解なものであり続けるからこそ、これたでもこれからも、千蚀䞇語が費やされおゆくのだず云うべきか。
 そんなわけで、この䞀文の目的もささやかなものである。ずおも死に぀いおの蚀説史に小石の䞀぀でも積み䞊げよう、などずいう倧それたものではない。ただ、死の「わけのわからなさ」に぀いお――それは昔の人にずっおもやはり「わけのわからない」ものであったから――圌らの戞惑い、混乱、䞍条理にたいする諊念、そうした態床の痕跡を共感をもっお眺めおみたい。それが今回のテヌマである。

 

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 勇気凛々アヌノルド・ベックリヌン

 

 

 

 さおこのようなこずを考えるきっかけずなったのは、゚リアヌデの「死の神話孊――序説」ずいう講挔録『オカルティズム・魔術・文化流行』所収のなかに、次のような話を芋぀けたからである。

 

 神は祖先のもずに、圌らは䞍死であろうずいう䌝蚀をもたせおカメレオンを遣わし、圌らは死ぬであろうずいう䌝蚀をもたせお蜥蜎を遣わした。ずころがカメレオンは途䞭で䌑んだため、蜥蜎が先に着いおしたった。蜥蜎がその䌝蚀を申し枡した埌、死が䞖界に入り蟌んだずいう。

 

 この【二人の䜿者】たたは【間違えた䜿者】ず呌ばれるタむプの説話は、アフリカに倚く芋られるずいう。
 これに぀いお゚リアヌデは、次のような寞評を加えおいる。

 

 死の䞍条理性に぀いお、これほど適切な説明はほずんど芋あたらない。たるでフランスの実存䞻矩者の著䜜を読んでいるかのような印象を受ける。実際、存圚から非存圚ぞの移行は絶望的に䞍可解なものであるだけに、ばかばかしい「説明」が、ばかばかしく䞍条理であるがゆえに、むしろ説埗力をも぀のである。もちろんこのような神話は、泚意深く緎り䞊げられた「蚀葉」の神孊を前提しおいる。すなわち、神がその決定を倉曎できなかったのは、蚀葉はいったん口に出されたら実圚を創造する、ずいう単玔な理由からであった。

 

 死が䞍条理であるからこそ、かえっお「カメレオンず蜥蜎」のような荒唐無皜な説明が説埗力を持぀、ずいうのである。
 ずりわけ怠け者のカメレオンが䌑んでしたったずいうこずの軜さず、そのせいで人間が死ぬ運呜ずなったずいう結果の重倧さずのアンバランスが、聞く者を意気消沈させるずころがある。これは、我々の呜など倩䞊界の出来事宇宙の摂理からしおみればその皋床のものなのだ、ずいう教えなのかも知れない。だがそれにしおも残念すぎる。
 わたしも、わたしの愛する者たちもみな死んでゆくのはひずえに、昔むかし、䞀匹のカメレオンが道䞭で居眠りをしたためなのだ  おや、道䞭で居眠りだっお

 

 䜕か思い出しはしないだろうか。我々はこれず非垞によく䌌た話を知っおいる。ばかりでなく、子䟛の頃から深く銎染んでいるはずだ。
 勘の鋭い読者はもうお気づきであろう。それはこんな話だ。

 

 亀ず兎が足の速さのこずで蚀い争い、勝負の日時ず堎所を決めお別れた。さお、兎は生たれ぀き足が速いので、真剣に走らず、道から逞れお眠りこんだが、亀は自分の遅いのを知っおいるので、匛たず走り続け、兎が暪になっおいる所も通り過ぎお、勝利のゎヌルに到達した。
 玠質も磚かなければ努力に負けるこずが倚い、ずいうこずをこの話は解き明かしおいる。

 

 ご存じむ゜ップ寓話の「りサギずカメ」である。
 『む゜ップ寓話集』は、前630幎頃の生たれである寓話䜜家む゜ップアむ゜ポスの著䜜ずされおいる。だが圌の実圚に぀いお語る資料は、たったくないわけではないもののきわめお乏しい。歎史家のおおかたの認識ずしおは、む゜ップは実圚したものの『む゜ップ寓話集』が圌䞀人の手による著䜜だずは芋做し難いずされおいる。むしろ『む゜ップ寓話集』は、䜕䞖玀にもわたっおさたざたな人が集積したものであるずいう芋方が匷い。
 ちょうど、䞀䌑さんやディオゲネスが実圚しおはいるものの、さたざたな説話や䌝説が圌らの名を冠しお集たっおきたように。歎史䞊にはそのような、埌䞖の人によっお膚倧な尟ひれが぀く人物が時々いる。思うにむ゜ップもそのような人物の䞀人だったのだろう。

  そしお『む゜ップ寓話集』の類話は、叀代オリ゚ント䞖界や゚ゞプト、むンドはもずより党䞖界に広範に芋られ、「そのような寓話の発生や䌝播を考える堎合には、寓話ずいうゞャンルの枠を倖しお、四、五千幎にわたる党䞖界の口承文芞の広がりの䞭で考えねばならない」䞭務哲郎ずいう。

 それゆえ、「りサギずカメ」が「カメレオンず蜥蜎」ず同じ【二人の䜿者】あるいは【間違えた䜿者】型の説話であった可胜性は充分に考えられるのである。

 

 さおそのように考えた堎合、もずもずはりサギずカメも、神による「䞍死」ず「死」のメッセヌゞを蚗されおいたのではないだろうか そしおその郚分が、む゜ップに収録された時にはすでに脱萜しおしたったのではないだろうか。ちなみに䞀郚分の脱萜ずいうのは、民話の䌝播過皋ではよくある話である。
 したがっお、この話の真のメッセヌゞは「玠質も磚かなければ努力に負ける」などずいう䞖俗的・良識的なものではなく「我々はなぜ死ぬのか、それはりサギが途䞭で寝たからである」ずいうこずなのではないか。それぱリアヌデが「カメレオンず蜥蜎」に぀いお述べおいたように、死があたりに䞍条理でわけがわからないために、死の起源もたた䞍条理な出来事によるものずしたほうが逆説的に説埗力を持぀ずいう、あの論理に埓ったものではなかったのか。

 

 りサギは、いわば人々の死にゆく運呜にたいする怚嗟を䞀身に集めるブラックホヌル的存圚だず蚀える。なぜお前はそこで寝たのかず問い詰めたい。小䞀時間問い詰めたい。しかしりサギにしおみれば因果が逆である。぀たり過ちがあったから人が死ぬようになったのではなく、人間が死ぬ理由を捜した結果、りサギが居眠りした過去に過ちがあったからに違いないずいうこずになったのだ。
 「そんなこず蚀われたっおねえ、神からの䌝蚀に䜕が曞かれおいるか知っおたわけじゃないし、あっしが調子こいお居眠りする性栌だっおこずも、神はわかっおいたわけでしょう もしかしたら神にもわかっおいなかったかも知れないけれど。いずれにせよ、それが運呜っおや぀ですよ。運呜は䞍条理なものなんです。人類は運が悪かったんですよ。ずりあえずビッグバンからやり盎せ。たぶんやり盎しおも無駄だけど」

 

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 

 

 「りサギずカメ」から、さらに連想した神話がある。
 これも、二人の䜿者的存圚の䞀方が䞍死を、䞀方が生の矎しさず儚さを担っおいるのだが、結局のずころ䞍死のほうはうたく届かなかったゆえに我々は死ぬ運呜ずなった、ずいう物語である。それは『叀事蚘』に出おくるのだが、あいにく家に手頃な珟代語蚳がないので、芁玄しながら蚳すずこんな感じだ。

 

 倩孫ニニギノミコトが笠沙の埡前に降り立ったさい、ゲロマブに遭遇した。
 「え、君圌氏おる おかどこ䜏み」
 ず蚊ねたずころ、
 「オオオダマツミの嚘でコノハナノサクダビメずいいたす」
 ずいうので、
 「セックルせん」
 ず口説いおみた。するず
 「あっ結婚の申し蟌みありがずうございたヌす。あヌ、でもたあ父芪に聞いおくださいね」
 ずいうので、早速オオダマツミに䜿いを出したずころ、オオダマツミはなんせ盞手は神なので倧いに喜んで、姉のむワナガヒメずさたざたな宝物を䞀緒にニニギノミコトに莈った。だが姉はブサむクだったので、ニニギノミコトは「あり埗ねえ」ず舌打ちしお即返品した。
 オオダマツミはむワナガヒメが返品されたので憀慚し、
 「姉効ずもども送ったのは、姉のむワナガヒメを嚶れば石いわのように長呜になるからで、効のコノハナノサクダビメを嚶れば花のように栄えるからだったのに。お前がむワナガヒメを返品したので倩皇の子孫は短呜になりたした。お前のせいです。あヌあ」

 ず蚀い攟ったずいう。

 倉野憲叞校泚『叀事蚘』を参考にした

 

 倧林倪良『日本神話の起源』によるず、この神話は【バナナ型神話】ずいう、東南アゞアやニュヌギニアを䞭心に広範に芋られる死の起源神話の䞀バリ゚ヌションである。
 ぀たり元はずいえば、倩皇家の短呜の理由を説明するずいうより、われわれ人間䞀般の呜が有限である理由を説明するためのものであった。戊犯カメレオンや戊犯りサギず同様、ニニギおた䜕しおくれずんねん、ず蚀わざるを埗ない。

 

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 では【バナナ型神話】ずはどういったものなのか。
 ゚リアヌデは先に挙げた「死の神話孊――序説」においお、兞型的な【バナナ型神話】である「石ずバナナ」ずいう神話を採り䞊げおいるので参照するなお、゚リアヌデはたたたた「石ずバナナ」の話をしおいるだけで、類型ずしおの【バナナ型神話】の話をしおはいない。もちろん「りサギずカメ」やニニギノミコトの嫁取りの話も語っおいない。

 又、『珟代思想 特集死 その総合的研究』所収の吉田敊圊「死の神話の論理」にも、䞋蚘の神話が「バナナ型神話」ずしお玹介されおいる。吉田によるず、この神話はセレベス島のアルフヌル族の間に䌝わるものであるらしい。

 

 最埌に、「石ずバナナ」ずいうむンドネシアの矎しい神話を思い起しおみよう。始原においお、倩は地の間近にあり、創造䞻は䞀本の繩の先端に莈物を結び぀けおは、人間のもずに䞋ろしおいたのであった。ある日、圌は䞀個の石を䞋ろした。しかし祖先たちはそれを受け取ろうずもせず、創造䞻に向かっお申し入れた。「こんな石をどうしろずいうのですか。䜕か別のものをください。」神は承諟した。しばらくしお圌がバナナを䞋ろしおやるず、人々は喜んでそれを受け取った。その時、祖先たちは次のような倩からの声を聞いた。「お前たちはバナナを遞んだのだから、お前たちの生呜もそれず同じようにしおやろう。バナナの朚が実を結ぶずき芪株は死ぬ。だからお前たちも死んで、子䟛たちがそれに取っお替わるようになるだろう。もしお前たちが石を遞んでいたら、お前たちの生呜も石のように䞍倉で䞍死なるものずなっおいたであろうに。」

 

 お前たちのせいです。あヌあ。

 

 ゚リアヌデはこれに぀いお、「倚くの叀代的文化においおは、「石ずバナナ」の神話がそれずなく仄めかしおいるように、死は生の䞍可欠の補完物ず考えられおいる」ず述べおいる。ようするに、次の䞖代の子䟛たちが生たれおくるからその堎所を明け枡せ、ずいうこずだ。

 

 果たしお、自分たちは䞍老䞍死だがずっず同じメンツで新しく子䟛が生たれおこないずいう存圚様匏ず、自分たちは死に、その代わり次の生呜が生たれおくるずいう存圚様匏――぀たり珟状ず、どちらが人間にずっお良いのだろうか
 我々が生たれるこずが出来たのは、べ぀に前の䞖代が死んでくれたからではない産んだから死ぬずいうものでもないはずなのだが、実際のずころ前の䞖代が死んでくれないこずには、地球に人類が溢れお寝る堎所もなくなっおしたうだろう。
   いやしかし、それで自らの死を玍埗できるずいうものでは、やはりない。地球や人類にずっおはそうでなければ郜合が悪いずいうのはわかるけれど、だからずいっお「あっなるほど玍埗したんで死、䜙裕っす。そいじゃ颚呂䞊りに死んできたす。バむチャ(☆ゝω・)b⌒☆」ずはならない。死ずはそういうものではない。

 

  


 さおここたで幟぀かの䟋を芋おきたわけだが、冒頭で述べたような「わけのわからなさ」、䞍条理の感芚からもさたざたな象城的衚珟が生たれ、「死ずはかくかくしかじかのものである」ずいう理知的態床ずはたた別皮の感慚をもたらすずいうこずが䌝われば幞いである。

 

 最埌に、死に぀いおなにか気の利いた私芋を述べおしめくくりにするのがふわさしいのだが、困ったこずに、これを曞いたからずいっお、やはり死に぀いおは「わけがわからない」ずいう気持ちから䞀歩も先に進たないのである。たあ死ずいうテヌマに぀いおは、今埌も䜕床も曞く機䌚があるだろうからさほど焊るこずはあるたい。それでも、なにかひずこず蚀うずすれば  

  そうだ、居眠りは良くないずいうこずです。居眠りは危険です。競走䞭に居眠りしおたら、ほが負け確定です。運転䞭の居眠りはさらに危険です。人生も、居眠りみたいな状態で過ごしおしたうずいうのはいかがなものでしょう。いやもちろん物理的にしっかり睡眠を取るこずは倧切だし、酩酊しおがんやり気分よく過ごすこずも結構なんですが  なんずいうか、いたここに生きおいるずいう感觊を、瞬間の連続のなかでいかに掎んでゆくか、それは起きお(生きおいる間じゅう垞には掎めないずしおも、折にふれ、ちょいちょい掎む瞬間が欲しいじゃないですか。
 そのために、比喩ずしお云うわけですが、「居眠りは危険」ですよ、ずいうこずですね。

 

む゜ップ寓話集 (岩波文庫)

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叀事蚘 (岩波文庫)

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