やすだ 😺びょうたろうのブログ(仮)

安田鋲太郎(ツイッターアカウント@visco110)のブログです。ブログ名考案中。

ボードゲームで闇堕ちするって何のこと?

 

 雨宮純氏の『あなたを陰謀論者にする言葉』のなかで、一見無害に見える「ボードゲーム」が、じつは闇落ちのきっかけとなるというさわりを見て気になり、すぐに注文した。

 いきなり余談だがこの本は新書なのに381頁もあって、標準的な枚数を大きく上回っているのは著者のパワーなり編集者の意気込みなりとにかく「何か」があるに違いないという読書歴30年の直感も即ポチに影響したことは間違いない。そして届いてみたら、これは入門書を包括する「メタ入門書」みたいなものであった。通常なら一章が一冊の入門書になるところであろう(「ヒッピーの時代」とか「ニューソートとは何か」とか「マルチ商法に騙されるな!」とか)。ところが著者はそれをぜんぶ一冊にぶち込む。当然ながらかなり薄く広い感じになっているのだが、「薄い」といっても敢えてやっていることで、一つ一つのトピックを詳細に取り上げるよりもそれらの繋がりを描いて全体の相関図を示そうという狙いなのだ。これはこれでアリだと思いましたね。

 

 さて届いてさっそく読んだところ、つまりある種のボードゲームマルチ商法の勧誘に利用されているという話であった。それは、言ってみれば「自己啓発ボードゲーム」とでも呼ぶべきシロモノで、代表的なのはあの『金持ち父さん貧乏父さん』をゲーム化した、「キャッシュフロー101」というゲームなのだそうだ。

 

キャッシュフロー 101 (日本語版)

キャッシュフロー 101 (日本語版)

  • マイクロマガジン(Micro Magazine)
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amazon.co.jpより。別におすすめはしません。

 

 内容はぱっと見てだいたい察せられる通り、内側の「ラットレース」と呼ばれる雇われの状態から抜け出す(不労所得が総支出を越える)と外側の「ファーストトラック」という、不労所得がさらに増加し自由時間が謳歌できるというイヤミなゲームで、「雇われてるうちは収入にも自由時間にも限界があるので経営者か投資家になってウハウハしよう」(大意)という、ロバート・キヨサキの深遠な思想でありかつ宇宙の絶対的真理が体現されている。

 

 そんなわけで、このゲームをプレイしているうちに自ずと「雇われるのダリィ、俺もいっちょ不労所得ゲットすっか」という気運が高まってくるのである。

 そもそも『金持ち父さん貧乏父さん』を読んでる奴にもそういう賃労働者を見下す、鼻持ちならない傾向があった。ただこんな本やゲームで感心するのは無能なくせにプライドだけはやたら高いバカ(だいたい長男)ばかりなので、まともな起業や投資を始めることなど出来るはずもない。そこでマルチ商品の出番というわけだ。

 かくして「キャッシュフロー101」やその種のゲーム(他にスティーブン・コヴィーの『7つの習慣』を元にした「7つの習慣ボードゲーム」、ナポレオン・ヒルの『思考は現実化する』を元にした「アチーバス」などがあるらしい)は、たいていのボドゲカフェで持ち込み禁止になっているし、ネットの情報によれば、マルチの勧誘目的であることを伏せてこういったゲームをする会に誘われたりもするらしい。

 

togetter.com

 

tgiw.info

 

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 ブログのためにあらためて確認したのだが、『金持ち父さん貧乏父さん』は冒頭からしシャロン・レクターという序文を寄せた人がロバート・キヨサキの開発したゲームを大学生の娘と一緒に遊んでどうしたこうしたという話が出てくるし、巻末にもしっかり「キャッシュフロー101」の宣伝ページが載っていて、そもそも本とボードゲームは切っても切り離せない関係にあるようだった。そしてそこにはロバート・キヨサキ自身によるこんな言葉が添えられていた。

 

 これから先、まだいくつもの大きな経済的変化が起こるでしょう。だからこそ、この『キャッシュフロー101』は一家に一つ、かならず必要な教材なのです。このボードゲームを、楽しみながら短期間で学ぶMBAプログラムだと考えてみてください。一ヶ月に一度テレビを消して、年齢に関係なく友達や家族とキャッシュフロー101』をやってみてください。将来のしあわせと経済的安定のために、これほど割のいい投資はありません。

 (ロバート・キヨサキ『金持ち父さん貧乏父さん』、太字は安田による)

 

 *

 

 また安田均『ゲームを斬る』(2006)で「キャッシュフロー101」がレビューされているが、当時のボードゲームは大体3000~6000円、たまに1万くらいの豪華なものがあり、これは日本にあまりボードゲームが普及していないのでドイツなどに比べて高いほうなのだそうだが、そのなかでキャッシュフロー101」は180ドル(約2万円)と格段に高い。ただ、つくりは確かに豪華でカセットテープなども何本か付随しており、コストとして一万円くらいなら納得いくという意味のことを安田均は書いている。

 安田によると、このゲームでは借金をして株や投資信託、不動産、事業投資などの不労所得を手に入れ、ある時ドカンと利益が出たらそれらの一部を売り払って借金を清算することによってラットレース(無駄なあがき)を抜け出すことができる。またこのゲームには手元資金はあっても貯金という概念はなく、その代りに(?)借金はひじょうに楽で、ほとんど無尽蔵に銀行がばんばか貸してくれるらしい。

 ちょっと穿った見方をすれば、「サラ金でカネを借りてでも商材(不労所得源?)を仕入れようぜ!」というたいへんマルチと相性のいい内容になっている。まあ金持ち父さんがそこまで狙っていたとまでは言わないけれど。

 まあいずれにしても、安田均はレビューの冒頭ではこのゲームを「あからさまに怪しい(笑)」と書いており、本についても「後半は主張に繰り返しが多く、結局、不労所得で暮せるようになれと言ってるようなものだ」と的確に醒めたコメントをしているが、やってみて本当に面白かったのか、あるいは連載のお約束なのかはわからないが、最後にはわりと好意的に

 

 作者もおそらくボードゲームが好きだと、よくわかる作品。ぼくにとっては、本よりもおもしろかった。

 (安田均『ゲームを斬る』)

 

 と〆ている。果たしてどのていど本音なのかはわからない。

 

 *

 

 さて最後に、読者諸氏はキルタイムコミュニケーションという出版社があるのをご存じだろうか。

 コミックアンリアル二次元ドリームマガジンというかなり攻めたポルノ雑誌、はたまたコミックヴァルキリーという戦闘美少女専門マンガ雑誌(現在はウェブに移行。代表的な連載は林達永/金光『フリージング』など)を刊行している、一部で有名な出版社なのだがこの出版社とロバート・キヨサキの関係について、とある噂がある。

 あくまで未確認情報として読んでほしいのだが、とにかくこんな噂だ(以下wikipediaから引用)

 

 キルタイムコミュニケーションの公式サイトでは関連会社として「株式会社マイクロハウス」および「マイクロマガジン社」が明記されているがマイクロマガジン社の公式サイトでは関連会社として「株式会社マイクロハウス」のみ記載でキルタイムコミュニケーションの記載はない また、マイクロハウスおよびマイクログループのサイトでも、関連会社として紹介されていない。

 手がける出版物が、ゲーム・パソコン・その他一般の出版物からアダルト中心へと移っていった理由として、マイクロマガジン社によるロバート・キヨサキの考案の教育ボードゲームキャッシュフロー101』日本語版の版権取得が考えられる。つまり、キャッシュフローゲームを取り扱えなくなるリスクを減らすために、キルタイムをマイクログループのアダルト部門とした上で、関係をなるべく表に出さないようにしたというものである。[要出典]

 

 あくまで[要出典]レベルの話ではあるが、これが本当だとするとようするにマイクロハウスが『キャッシュフロー101』を出迎えるためにいかがわしい部分を「キルタイムコミュニケーション」に隔離したという、まるでオリンピックを開催するために風俗店やホームレスが追っ払われ「清浄化」された、みたいな話なのである。

 光と闇は決して交わらぬというか。そこでなんとなく、「だったら俺はキャッシュフロー側じゃなくポルノ側につく!」みたいなことを思ったりするのである。思わず「いかがわしい」と書いてしまったが大体、そういう「いかがわしさ」とああいう「いかがわしさ」のどっちがいいかと言ったら、そういう「いかがわしさ」のほうが、つまりえーとですね、今回のブログの結論と絡めて言いたいことはこういうことだ。

 不労所得とかどうでもいいからエロいコンテンツで脳汁出そうぜ!!!!!

 あ、言ってしまった……まあそんなわけです。

 

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コミックヴァルキリー』。なお『コミックアンリアル』や『二次元ドリームマガジン』は、表紙をここに載せるのも憚らる感じなので、興味のある方は各自お調べください。

 

 いや不労所得できれば欲しいけど。不労所得で楽してる人がいないとも言わないけれど。しかしそういうのは才覚と努力と根気と運と資金のうち最低三つくらいが必要な話なわけで、慌てて目先のものに飛びついて、怪しげな儲け話の餌食になってしまうくらいならブヒってたほうがマシなわけです。

 さてそんなわけで話を終わります。ではまた(・ω・)ノ

 

 

 

 なお『金持ち父さん貧乏父さん』は現在では新版が刊行されている模様。本文で参照した(ボードゲームの宣伝が載っていた)のがこちらなのでこちらのリンクを貼っておきます。