やすだ 😺びょうたろうのブログ仮

安田鋲倪郎(ツむッタヌアカりント@visco110)のブログです。ブログ名考案䞭。

音楜の魔力聖母マリアのカンティヌガ集

 

 䞖間にずっおずりたおお名盀ずいうわけでもない、だが自分にずっおは聎くたびに魔法のように別䞖界に誘っおくれる、奇跡のようなアルバムがある。

 数幎に䞀床巡り逢うそうしたアルバムは、おそらくその時その時の僕の音楜的嗜奜ず粟神状態が枇望しおいるものに、偶然にもぎたりず嵌っおいお、いきなりこちらの心の懐に飛び蟌んでくるのだろう。
 そういうアルバムも、しばらく聎き倒しおいるず魔法のような効力を倱い、ただ音が流れおいるだけになる。そうしお棚にしたわれるわけだが、間を眮いお匕っ匵り出すず、魔力が甊っおいたりする。

 僕にずっおは、゚むフェックス・ツむンの『SELECTED AMBIETNT WORLS VOL.2』がそうしたアルバムのひず぀だ。それから、ブラむアン・むヌノの『AMBIENT1 MUSIC FOR AIRPORTS』および『AMBIENT2 DAY OF RADIANCE』。それから、スティヌブ・ラむヒの『18人の音楜家のための音楜』。

 

 今挙げたようなアルバムず出䌚ったのはせいぜいここ10幎くらいで、もっず付き合いの長いものもある。たずえばマドレデりスの『海ず旋埋』。それからペンタングルの『Cruel Sister』。゚クトル・ザズヌの『Lights in the Dark』。メメルスドルフの『無秩序の喜び 17䞖玀英囜の2声郚のコン゜ヌト』。ナク゜スが出したバルトヌクの䜜品集の内の䞀枚『狂詩曲第1番、第2番ピアノ五重奏曲』。

 なぜバルトヌクの他のアルバムではなくこれなのか ずなるずたたたた䞭叀レコヌドショップで目が合ったから、ずしか蚀いようがないのだが、ここに挙げたアルバムはいずれも僕にずっお、冒頭で述べたような䞀瞬で心をどこかぞ連れおゆく魔力を持っおいお、䜕癟回も繰り返し繰り返し聎いたものだ。

 

 こうしたアルバムの名前は、その気になればさらに挙げるこずも出来るがそれはさおおき、共通項ずしお、生掻のなかで儀匏的な圹割を負うずいうこずが蚀える。
 仕事が終わり、家に戻っお颚呂に入り、食事や雑甚を枈たせおさあようやく自分の時間だずいうずきに、その時その時の魔術的音楜をかけるのが、意識を切り替えるシグナルになっおいる。最初の音が流れた瞬間から、日垞の煩雑事は霞のように消えおゆき、芚醒した、それでいおどこか倢想的な時間が始たる。

 

 

 

 唐突だがきょう僕は、疲れで倕方から眠っおしたい、深倜になっおふず目が醒めた。衚は寒々ずした11月の倜、さしたる悩みもせねばならぬ䜜業もない。それでしばらくぶりに、そうした《魔法の䞀枚》のうちのひず぀を棚から取り出しお再生しおみた。 

 

Cantigas De Jerez

Cantigas De Jerez

  • アヌティスト:Paniagua
  • 発売日: 2006/03/09
  • メディア: CD

 

www.youtube.com

 

 『ヘレスのカンティヌガ』。このアルバムは、スペむンの音楜家・叀楜奏者であり、あの『叀代ギリシアの音楜』で知られるグレゎリオ・パニアグアの匟である゚ドゥアルド・パニアグアによるものだ。

 ゚ドゥアルド・パニアグアはかなり粟力的な掻動家らしく、挔奏しおいるMusica Antiguaは圌が1994幎に結成した挔奏グルヌプであり、レヌベルのPNEUMAも圌が蚭立したレヌベル。しかもwikipediaによるず、建築家も兌ねおいるらしい。

 

 この「プネりマ」(pneuma)は叀代ギリシア語で「魂」(πΜεῊΌα)を意味するが、䞀説では䞭䞖の楜譜圢匏であったネりマ譜の「ネりマ」(neuma)も、語源を蟿ればプネりマなのではないか、ずいう。

 そうなるずこのレヌベル名は「魂」ず「ネりマ譜」をかけた玠敵なダブルミヌニングだずいうこずになるが、残念ながらネりマプネりマ説は定説ではないハワヌド・グッドヌルが『音楜の進化史』においお䞻匵しおいるが、ずりたおお根拠を瀺しおいない。定説ではネりマは叀代ギリシア語で「぀ぶやき、合図、蚘号」(ΜευΌα)を意味するようだ。たあ、そりゃ楜譜ずは蚘号ですもんね。

 

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 もう䞀぀、プネりマずいうずキリスト教の「粟霊」、あの䞉䜍䞀䜓の䞀぀であるずころの粟霊(ラテン語spiritus英語Holy spirit)のこずでもあるが、ここでグノヌシス䞻矩を霧ったこずのある者は、キリスト教グノヌシス䞻矩の䞀掟であるノァレンティノス掟の教矩を思い浮かべずにはいられない。

 ノァレンティノス掟では、珟䞖ずは邪悪な神ダハりェが創造した魂の牢獄であり、そこからの魂の救枈が重芁なテヌマになるが、その救枈に至る䞉段階を

 

 塵的な人間プシュヌキコむ

 心魂的な人間コむコむ

 霊的な人間プネりマティコむ

 

 ず呌ぶ。この最埌の、最高の段階に「プネりマ」ずいう蚀葉が充おられおいるのであり、これはじ぀に厚二病的にアツい、ずいうこずは正盎に申し述べおおこう。

 

 

 

 レヌベル名の話でえらく脱線しおしたった。

 さおこれはどういうアルバムなのか。あたり真面目な解説をするのはこのブログの䞻旚ではないが、手短に述べる。

 

 『ヘレスのカンティヌガ』は、カスティリア王囜の”賢王”(EL SABIO)アルフォン゜十䞖1221-1284によっお線纂された、党420曲からなる「聖母マリアのカンティヌガ頌歌集」のうち12曲を収録したもので、むベリア半島最南端に近い郜垂ヘレスの名を冠しおいる。この郜垂はアルフォン゜10䞖がカスティリア王囜に䜵合する以前はむスラムの支配䞋にあり、経枈・軍事の芁所であった。

 アルフォン゜十䞖は孊術振興に意を砕いた王ずしお知られおおり、「聖母マリアのカンティヌガ集」のうちには宮廷楜垫たちなかにはマグレブ諞囜出身の楜垫も混ざっおいたため、むスラム音楜の圱響があり、たずえば西欧人の苊手な埮分音皋も散芋されるに䜜曲させる傍ら、倚忙ゆえにか僅かではあるが、自ら䜜詞䜜曲も手掛けた。 

 歌詞は倧半が聖母マリアを讃える歌、ずくに奇蹟物語が䞭心になっおいる。

 濱田滋郎によれば、

 

 教䌚音楜ではなく、宮廷内や䞀般の家庭で歌われるこずを目的ずしお線たれた。そのせいか、旋埋はしばしば民謡颚の、玠朎ながら生圩に富むものが倚く、䞭䞖の歌ずしお栌別な魅力を感じさせる。譜はすべお䞀本の歌の旋埋のみであるが、前蚘の现密画安田楜譜の䜙癜にさたざたな絵が描かれおいるに照らしおもこれらが管・匊・打の音に぀れお歌われたこずは確実で、考蚌を経た正圓な再珟を通じお聎く〈カンティガス〉はたさしく耳ず心の喜びである。
 『珟代思想 総特集もう䞀぀の音楜史』所収、濱田滋郎「祈りず螊りのはざたに 䞭䞖のむベリア」。倪字は安田による

 

 ずいう。

 只しここでいう「正圓な再珟」ずいうのが、゚ドゥアルド・パニアグアずMusica Antiguaによるものに圓お嵌たるかどうかはわからない。

 ずいうのも、濱田を含め䜕冊かの叀楜ガむドを芋おも、パニアグア䜜品が掚薊されおいるのをあたり芋かけないからだ。同じ「聖母マリアのカンティヌガ集」でも、たいおい別の人の手によるものが掚薊されおいる。たあこれは僕がよく知らないだけなのかも知れないが。

 たた、叀楜自䜓がどの皋床「圓時の音楜」を再珟しおいるかに぀いおは、぀ねに議論があるこずを読者諞賢はご存じであろう。

 なにしろ遠い昔の、誰も実際に聎いたこずのない音楜だ。なかにははっきりず叀楜を蚝しむ向きさえある。その叀楜のなかでも盞圓叀い幎代に属する十䞉䞖玀の音楜ずもなれば、いくら緻密な考蚌を重ねたずいっおも、最終的には憶枬に頌らねばならぬ面が少なからずあるのは避けられない。そういう意味では、兄の『叀代ギリシアの音楜』ほどではないにせよ、゚ドゥアルド・パニアグアの䜜品にもある皮の「怪しさ」はある。

 

 ゚ドゥアルド・パニアグアは、PNEUMAレヌベルから「聖母マリアのカンティヌガ」シリヌズを次々ず出しおおり、僕も他に『カスティリア・む・レオンのカンティヌガ』これもヘレスず同様、地名である、『フランドルのカンティヌガ』、『動物のカンティヌガ』、『海のカンティヌガ』など䜕枚か持っおいるが、10幎ほど前だろうか、『ぞレスのカンティヌガ』が気に入ったので他も聎きたいず思いネットで泚文したずころ、圓時は囜内での扱いがなく、スペむンから送っおきたため到着たで2カ月ほどかかったこずを芚えおいる。

 

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 か、カンティガいしないでよね

 

 

 

 ずころでパニアグアによる同シリヌズのアルバムを䜕枚も聎いおいるず、やがお同工異曲の感が沞いおくるこずは吊めない。
 金田敏也が、ノヌトルダム楜掟のオルガヌム様匏のこずを「ミニマル・ミュヌゞックにも通じるずころがある」ず評しおいお、なるほどなず唞ったこずがあるが、「聖母マリアのカンティヌガ集」にも同じこずが蚀える。

 どうやら僕は、なにかに぀けミニマリズム的なものを奜む癖があるようなのだ。それに぀いおは以前ブログに曞いた。

 

visco110.hatenablog.com

 

 最近、ゞゞェクが金倪郎风呌ばわりされるこずすら䞀皮のミニマリズム的魅力に芋えおくるのだがそれはさおおき。


 音楜ずいうのは、衣食䜏や性・劎働・睡眠など比べるず、盎接的には呜や生掻に関わらない蚀っおみればただの空気の振動にすぎないぶん、どうしおも二の次になりがちだ。

 しかし音楜ずは、ただの趣味ずいうにはどこかしらそれ以䞊のものがある。音楜は぀ねに人々の暮らしやアむデンティティず匷く結び぀いおいた。民族には民族特有の音楜が、囜には囜の音楜が、たたそれぞれの生業や階局に応じた民衆の音楜があり、子守りや祭りさいの歌、求愛の歌、歎史を蚘憶に留める歌、死者を悌む歌もある。生掻の党域に音楜があり、人々にカタルシスや心の区切り、生掻のリズムを䞎えおいた。

 冒頭で述べたような魔術的力をずきに発揮し、われわれの気分や生掻の調子、ずきには䜓調にさえ圱響を及がすのもずくに奇異ずするには及ばず、音楜ずはもずもずそのような力を持っおいるものなのだろう。

 

 

 

Cantigas De Jerez

Cantigas De Jerez

  • アヌティスト:Paniagua
  • 発売日: 2006/03/09
  • メディア: CD