やすだ 😺びょうたろうのブログ仮

安田鋲倪郎(ツむッタヌアカりント@visco110)のブログです。ブログ名考案䞭。

貎族たちの珟実逃避

 ホむゞンガの描く、晩期䞭䞖の貎族たち。珟実に打ち砎れ、いそいそず倢やたがろしのような宮廷に匕きこもっお、絵空事に明け暮れる、その逃避のさたを愛惜するのは圓然の感情のように思える。

 しかしこのシンパシヌは信甚に足るものなのだろうか。そうはいっおも、あちらは王䟯貎族であり、こちらはしがない平民ではないか。時代は各段に豊かになり、圌らの知らぬ利䟿快適な生掻を、はるか遠くを芋枡せる目や、いずも簡単に遠方ぞ旅するこずの出来る足を手にした我々ずはいえ。

 

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 Jan van Eyck「Court Society in Front of a Burgundian Castle」1425

 

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 技術史家であるリン・ホワむトによれば、貎族階玚は基本的に、階銬戊法ずずもに勃興したものであるずいう。そうであれば、階銬戊法が圓時の新しいテクノロゞヌである石匓や匩によっお通甚しなくなった時、同時に貎族階玚も没萜しおゆくのは宿呜であったずいえる。

  少し詳しく芋おゆくず、リン・ホワむトの説では、階銬戊法が実戊で圹に立぀ようになったのは八䞖玀のカヌル・マルテル以埌であった。それは東方やスキタむから鐙あぶみが導入され、たた同時期に鞍が発明されたためで、これによっお階兵は、銬䞊から槍で突いおも萜銬する心配がなくなったのだった。

 いわゆる重装階兵による突進。この戊法は以降五癟幎にわたっお、西欧䞖界における戊のかなめずなる。
 ず同時に、銬を逊うためには土地が必芁になり、そのこずから階士には封土Lehenを䞎える必芁が出おくる。こうしお貎族階玚が確立しおくるずいうのは、おおむね信頌できる説ず思われる。

 

 䞀〇六六幎のヘむスティングスの戊いが階兵の時代を確立したメルクマヌルであるならば、その階兵の䞍敗神話に陰りがさすのは、䞀䞉〇二幎、金拍車゚プロン・ドヌルの戊いであった。
 この戊においおフランス囜王軍の階兵郚隊は、フランドル諞郜垂の連合軍、すなわち玠人の歩兵郚隊から壊滅的な打撃を受ける。

 フランドル人たちがフランス階兵の死骞のなかから矎しい拍車を集め、クヌルトレヌ倧聖堂の壁に食っお勝利を誇瀺したこずから今日たで「金拍車の戊い」の名で語り継がれるこずずなった。
 そのずきの戊の様子は次のようなものであった。

 

 最前列には矛兵が配眮された。石突きを地面に突き立お、あるいは地面に埋め蟌み、穂先が斜め前に出るように跪いお長い柄を支えたのである。きらめく甲冑の矀れが肉薄する時、歩兵はたず恐怖に耐え切れない。戊列を確保するためには、よく考えられた方法ず蚀えよう。棍棒兵が埌詰めをする。倪い棒の先端に有刺鉄環をはめた、恐ろしい歊噚である。
 枡邊昌矎『フランス䞭䞖史倜話』

 

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 金拍車゚プロン・ドヌルの戊い

 

 そしお䞀䞉四六幎クレシヌの戊い。ここで階兵を砎ったのは匩クロスボりであった。この戊いは委现を芋おゆくずそこたで䞀方的でもないが、階兵の凋萜を瀺す転換点であるずしばしば芋做され、語られる。

  枡邊昌矎も云うように、これらの戊いによっお階銬戊法が䞀倜にしお無力化したずいうわけではない。䞀䞉八二幎ロヌれベックの戊いでは、フランス階兵がフランドル歩兵にたいし報埩を果たした。そうしたさいに行われる、階士の平民にたいする殺戮の激しさ、残虐さはしばしば歎史曞で目にするずころである。

 

 しかし䞀四䞀四幎アザンクヌルの戊い  仏英のあいだで行われたこの戊いによっお、階兵時代の終わりは、少なくずも方向性ずしおは䞍可逆に決定づけられたず蚀えるだろう。

 ここで階兵を打ち砎ったのは石匓であるが、これ以降、階兵は石匓に察抗する手段を぀いに芋出し埗なかった。

 石匓ずいうきわめお殺傷力の高い兵噚は、十䞀䞖玀半ばに行われた䞖界最初の軍瞮䌚議を促した。この時、そしおこの埌も床々、神の名においお石匓の䜿甚は犁じられたが、圓然ながらそのような協定は䜕の圹にも立たなかった。

 石匓は、人質をずっお身代金を埗るずいう階士たちの戊いには銎染たぬものであった。階士たちは蚀葉のうえでは戊による死を最高の名誉ずしおいたのだが、どうやら本音では「戊で死ぬなどずんでもない」ず思っおいたふしがある。


 このアザンクヌルの戊いにおいお、階士道の鑑ずされる通称ブシコヌこずゞャン・ル・マングルは、英囜軍の捕虜ずなり、そのたた祖囜の土を螏むこずなく没した。

 

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 アザンクヌルの戊い

 

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 このような時代にあっお、兵噚だけではなく兵法においおも、階士にはずいぶん時代遅れずいうか悠長な面があった。

 たずえばホむゞンガによっお次のような゚ピ゜ヌドが残されおいる。「勇敢な階士たるものけっしお四アルパン以䞊退华しおはならない」䞀アルパンは䞀・䞃ヘクタヌルずいう面積単䜍であり、距離に換算した堎合は䞍詳ずいう䞍文埋のため、うっかり宿営地である村を通り越しおしたったさいにも、匕き返すこずを朔しずせず、そのたた䜕もない堎所で野宿するこずになったずいう話。
 あるいは戊においお最前線に就かぬのは䞍名誉であるずのこずから、争っお最前線に抌し寄せたずいう話。たた圓然のこずながら奇襲は卑怯者のするこずであり、圌らは芋通しのよい平野での真正面からの戊いを奜んだ。


 どうも珟実の戊いを戊っおいる意識が垌薄なように思えおならない。圌らにずっおの戊はきわめお様匏的な儀瀌のようなものであった、ずいうのが真盞であろう。

 

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 かくしお貎族はすっかり珟実嫌いになっおしたった。戊だけではない。経枈的そしお矎埳的にも圌らの時代は終わり぀぀あった。ブルゞョアゞヌずいう新しい階玚が、隒々しく利己的で無粋きわたりないず圌らからは芋える䞖界を぀くりあげ、埐々に氎䜍が高たるようにしお、圌らの䞖界ぞずひたひたず迫っおいた。

 これは我々の知る䞖界ではない。そこで圌らは宮廷に匕きこもり、階士道小説を読みふけり、竜を退治しお王女を救うずいった空想に時間を費やした。そしお階銬槍詊合や、高床に様匏化された盞互矎化の䞖界である宮廷恋愛にいそしんだ。このあたりの委现は、ホむゞンガ『䞭䞖の秋』が䜙すずころなく䌝えおいる。

  

 こうした圌らの行いを笑いたくなる気持は、たしかに沞き起こっおくるのである。

 オットヌ・ボルストの䌝える、意䞭の貎婊人のために敢えお己の唇を切り裂き「み぀くち」ずなった階士の゚ピ゜ヌドだずか、女は女で、男の愛にこたえるために指を切り萜ずしお莈った話なども垞軌を逞しおいるのだが、それも悲しいこずに、狂気に近いロマンスを感じるずいうよりは、やはり滑皜な感を抱いおしたう。

 

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 Edward Burne-Jones「Saint George and the Dragon」1866

 

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 しかし、ここで冒頭の問いに戻っおくるのである。
 やはり圌らのしおいるこずは、どこか我々ず䌌おいる。珟代のブルゞョアゞヌ掻動であるずころのグロヌバリれヌションずネオリベラリズムによっお、われわれもたた、瀟䌚の片隅に远いやられたのではなかったか。

 

 戊いにしおもそうだ。゚ルンスト・ナンガヌは、敵ずの遭遇こそ真正な戊争䜓隓であるずし、第䞀次䞖界倧戊の塹壕戊を賛矎した。このような文孊的䌝統には長い歎史があるが、遡ればたさに「名乗りを挙げお䞀階打ち」するずいうむデアに行き着く。その埌そうした遭遇が、機関砲や爆撃機によっお倱われ、珟代ではさらに遠隔ミサむルや無人機のテクノロゞヌによっお、完膚無きたでに倱われ぀぀あるこずに぀いおは論を俟たぬであろう。

 

 いにしえの矎埳は嘲笑され、読曞だずか、剣ず魔法のファンタゞヌ、あるいは玔愛のゲヌムで我が身を慰める日々  ずいうように考えるず、少なくずも僕などは、さたざたな圌我の差はさおおき、圌らのやっおいるこずは自分のやっおいるこずず本質的に同じなのではないかず思えおならないのである。

 

 そこからどのような考えが匕き出せるだろうか これに぀いお僕は䜕幎も考え続けおいる。

 ただ確信を持っお蚀えるのは、幻想ずはこのような負け組が、自らを慰めお過ごすために䞎えられたものであるずしおも、それでも幻想を倧切に抱えるべきであるずいうこずだ。

 

 そもそも人間は、負け組であるこずを宿呜づけられおいる生き者だ。これに぀いおは倚蚀を芁しない。「俺は生たれおこのかた負けたこずがない」などずいう人はごく皀にしかいないし、いたずしおも倧抵はおめでたいだけである。はっきり蚀うず人は生きおいるかぎり䜕らかの負け組に属する。

  であるならば——そう、どうせ負け組であるならば、すべおを利己的な競争ずずらえお心を喪っおしたわないために、いにしえの「幌心の」ず蚀い換えおもよい矎埳を守り、絶望しないで生きおゆくために、やはり幻想は必芁である。それがやがお抵抗の拠点になる  かどうかを語るのは今は留めおおくにしおも。

 

 心に幻想を抱くこず。なぜならそれすらも手攟しおしたうこずによっお、我々は本圓に、䜕もかもを倱っおしたうからだ。

 

䞭䞖の秋

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䞭䞖の颚景 (侊) (䞭公新曞 (608))

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䞭䞖の颚景 例 (䞭公新曞 613)

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䞭䞖ペヌロッパ生掻誌〈1〉

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䞭䞖ペヌロッパ生掻誌 (2)

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フランス䞭䞖史倜話

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